赤い傘
「傘」の思い出で真っ先に思い浮かぶのは、今でも胸の奥でジクジクと残るこの話です。
私が小学校低学年のときの出来事です。
私には3つ年の離れた、いとこの女の子がいます。
その子はいつもうちに遊びに来ていて、よく泊まっていたのでまるで妹みたいな存在でした。
ある日、家で私といとこが遊んでいる所に、母が仕事から帰って来ました。
そして、特に誕生日でもないのに、いとこにプレゼントを渡したのです。
それは、小さい子ども用の赤い傘でした。
女の子の絵が描かれた赤い傘は、私から見てもとっても可愛くて、羨ましくてたまりませんでした。
それと同時に、「どうして、いとこだけ。どうして私には何もないの」と悲しく、悔しく、とても腹を立てました。
「私のお母さんなのに。いとこのお母さんじゃないのに。」と意地の悪いことも思いました。
今でもなぜあの時母が突然傘を買って来たのかはわかりません。
その夜、いつものように、いとこは家に泊まりました。赤い傘は玄関に置いていました。
みんなが寝静まったころ
私はみんなを起こさないようにそっと動き出しました。
棚からハサミを持ち出し、玄関に立てかけていた赤い傘に羨ましい気持ちと恨めしい気持ちをぶつけました。
チョキチョキと小さい穴を空けました。
傘を開かなければわからないほどの小さな穴です。
空けた穴を見たとたん、急に自分がとんでもないことをしてしまったことに気がつき
こわくなり、慌てて布団の中に戻りました。
そして次の日なにも知らない、いとこは傘と一緒に自分の家に帰って行きました。
傘のことは誰にも言えずその後を過ごしました。
そして数年前、母といとこにそのことを話すと、二人とも赤い傘の事は覚えていませんでした。
二人は忘れてしまったけれど、私はこの先もずっと赤い傘を忘れることはありません。
星光里
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